皮膚・皮膚疾患の四方山話1-2 -アトピーとは何のこと?-
皆さん今日は! 南青山皮膚科スキンナビクリニック特別顧問の石橋です。今回もアトピー性皮膚炎についてお話したいと思います。一般に日本ではアトピー性皮膚炎のことを、“アトピー”、“アトピー”と略して呼んでいますが、この言葉の由来について皆様はご存知でしょうか? 今日はその辺のことについてお話したいと思います。
そのように、アトピー性皮膚炎について語るとなると、まず“アトピー”という言葉の意味からお話しすることになります。皆さん“アトピー”とは何でしょうか。一般の方々にはあまりなじみのない名称でありましょうが、医師の仲間ではどなたも学生時代に一度は皮膚科の講義でお聞きになってよくご存知の名前でしょう。それは、成書によればギリシャ語のアトピアから由来した、“通常のものではない”とか、“奇妙な”、或いは“変わった”とかいったことを意味する言葉です。では何が“変わり”、何が“奇妙”なのでしょうか。
実はこの言葉を最初に使ったのは、Coca, AFとCooke, RA という2人の医師です。今から85年前の1923年のことです。当時から、内科や小児科の領域では“気管支喘息”や“枯草熱”、この病名は日本ではあまり使われません、現在でいう“季節性アレルギー性鼻炎”、或いは“花粉症”に当たるものですが、こうした病気は、誰にでも起こるのではなく、“少数の特別な人”に起こると考えたわけです。そこで、こうした病気やそれを起こす人達を“アトピー”と呼びました。それが“アトピー”という言葉の始まりです。つまり、もっと専門的にいいますと、人の“過敏症”、これは“アレルギー”とも呼ばれますが、広い意味での免疫防御反応です、それを、正常型、つまり普通の人が示す反応タイプと、アトピー型、つまり変わった独特の反応を示すタイプの2つに分けることを提案しました。彼等はこのアトピーという概念の導入によって、一定の人達に起こりやすい喘息や枯草熱の病気としての位置づけを定めようとしたわけです。
この発想は、当時は勿論、現在でも通用する極めて画期的で、且つ卓越したものでして、人の免疫防御機構を考える上で、大変重要な考えでありました。そこで、その違いの基は何かと調べていくと、“アトピー型”の人達の血液には“レアギン”と呼ばれる物質、現在ではそれは免疫グロブリンE(抗体の主構造物:IgE)という蛋白質であることが分かりましたが、それが増えていて、病状が重くなるとその量も増してくることが分かったのです。また、こうした人達は親子・兄弟等、家族間にも同じような体質を持つ者も多く、素因の遺伝が推測されるようになりました。そこで、そうした人達のことも“アトピー”或いは“アトピー素因(体質)を持った人”等と呼ぶようになったわけです。
では、本題である、当時内科や小児科領域でなく、皮膚科領域で取り扱われていて“別の病名”で呼ばれていた“アトピー性皮膚炎”は、上記“アトピー”と呼ばれる免疫防御機構の不備に関係する疾患でしょうか。卵が先か、ニワトリが先かの話と似て中々難しい問題なのですが、少なくとも大部分は免疫機構の不備が深く関わる病態を指していることは疑いない様に思います。ただ、前にもお話ししましたが、“アトピー性皮膚炎”は原因が一つの病気ではなく、原因や発祥機序の違った幾つかの疾患が集まったその総称名である可能性が高いのです。例えば、皮膚症状はまったく同じでも血中のIgE値が高くならない人もいます。そうした人達も実際には“アトピー性皮膚炎”として取り扱われています。
そこで、ここではまず、一般に“アトピー性皮膚炎”とされる血中IgEが高くなる代表例についてお話ししたいと思います。そのものも、本当に上記“アトピー”の範疇に属する過敏症と言っていいのでしょうか。つまり、“アトピー性皮膚炎”と“気管支喘息”、そして所謂“花粉症”とは同じ仲間で、ただ病気に罹っている部位が、“皮膚”、“気管支粘膜”、“鼻粘膜”と違っているに過ぎないのかどうかということです。
そのことを考えていくと、では、何故こうした病気を持った人ではIgEが増えるのか、という説明が聞きたくはありませんか? 更に、何故アトピーと正常な人とで過敏反応に違いが出るのでしょうか、そういうことも大変興味ある問題ではありませんか? それ等のことについてはこれから順を追って説明していきたいと思います。次回はとりあえず“アトピー”と“アトピー性皮膚炎”との関係について改めてご説明いたします。どうぞお楽しみにお待ちください。