皮膚・皮膚疾患の四方山話 5-1 -抗原提示細胞(APCs)はどんな働きをするのか?-
皆さん今日は! 南青山皮膚科スキンナビクリニック特別顧問の石橋です。さて、前回までアトピー性皮膚炎の本態について、その特徴はアトピー性皮膚炎の患者さんの示す免疫応答性が、普通の人とかなり違って(“アトピー”)いるため、というお話をいたしました。そして、その原因は恐らく、皮膚表層の表皮と呼ばれる部分に住んで抗原を提示するランゲルハンス細胞(ラ細胞)(最近は表皮下真皮上層の“真皮樹状細胞”の方が重要視されていますが)が、通常人と違った機能を発揮するためではないかと申し上げました。そこで、今回はこの抗原提示細胞とその提示機序、そしてその情報を受け取るTh細胞について、もっと詳しくお話ししたいと思います。
さて、表皮のラ細胞や真皮上層の樹状細胞はいずれも一種の貪食細胞で、いわば免疫防御の最前線で“見張り係”のような役割を担うものです。これらの細胞は、皮膚表層で互いに長い腕(樹状突起)を出し合って、蜘蛛の巣のような網目を形成して獲物を待っています。そして、外から微細異物が侵入しようとしますと、それ等を捕捉し、細胞質内の小さな袋(エンドソーム/ライソゾーム)の中に入れて貪食します。つまり、中に蛋白分解酵素を出して長い蛋白をバラバラに切断するのです。この際決してアミノ酸単体にまでは分解しません。或る数の短いペプチド(10個前後からなるアミノ酸)の形に残すのが特徴です。この機転はプロセッシングと呼ばれています。
その結果出来た短い抗原ペプチドを、細胞内(ER:粗面小胞体)で作られた特殊な窪状の装置(蛋白体)(MHCクラスII)に乗っけて、細胞表面に“幟”のように掲げます(抗原提示)。つまり貪食細胞は異物を食べて分解するだけでなく、ある一定の長さのペプチドに残して、何を食べたかその断片を証拠として差し出す訳です。その際、抗原を提示する窪み状の構造(MHC クラス II分子)の表面には幾つかの穴ぼこが出来ていて、そこに抗原分子の突起がうまく嵌り、しっかり固定されますと、そこに、ヘルパーT細胞(Th)が寄ってきて、受容体でその配列を読み取り、何が侵入して来たかを把握します。その際、抗原と受け皿のMHCクラスII分子の結合がしっかりしていればしているほどこの読み取りは効果的となり、その後の反応も強く起こることになります。ここで、提示される抗原のアミノ酸がもし3、4個以下といった少数であった場合は抗原の特徴がでませんので読み取れません。また、20個以上の長いものでは、今度はTh細胞の受容体には大きすぎてうまく認識できません。その中間(特に外来抗原(ウイルスを除く)では、アミノ酸10個から15個前後の長さ)のものは、その順番(配列)が読み取られます。
そして、その特徴から、多分、まず自己蛋白か非自己蛋白(ペプチド)かが識別されるでしょう。そして、アトピー性皮膚炎患者では、それが非自己で、以前捕捉したヒョウヒダニ等“特定の異物抗原ペプチド”と分かれば“Th 2型”で、また カンジダ等“その他の(以前捕捉した)異物抗原ペプチド”であれば“Th 1型”で反応するという訳です。従って、抗原認識の前のTh細胞同士に、特別な差があるとは考えられませんので、その差が生じるのは“抗原の特殊性と樹状細胞の提示の仕方の差”が原因、と考えられる訳です。しかし、実際にはこの差が生じる本当の理由はなお明らかにされていないのです。
今回は以前からの続きで、抗原提示細胞(APCs;樹状細胞)の抗原の提示と、そのTh細胞による読み取りの話しを、大事なので重ねてお話しいたしました。次は、まず、最近問題になっているこのAPCsの種類や、その提示装置(MHC クラス II)について更に詳しい説明をしなければならないと思っております。それから、実際にヒョウヒダニ抗原のどの部分のペプチドで、樹状細胞のどのMHCクラス IIに乗っかって提示されたものを、どのTh細胞が認識して動いているか、という話しもしたいと思います。そこには驚くべき光景がミクロの世界で展開されているのです。少々難しいかもしれませんが是非期待してお待ちください。